よく言うじゃん。
モテなかったらナンパでもしろって
そんな非モテが悩みに悩み続けると出てくるのがこの話。
前回から続きで、こんな非モテがナンパをしてみた時のお話です。
ナンパではない!道案内だ!
少しきつそうな印象の女性でした!
ですが、普段は少し遠いところに住んでいて、新宿には母親のためにタイガーナッツという穀類を買いに来たというものすごく良い娘。



真面目に清廉に。そんな彼女を僕は直視できなかった。
「連絡先を交換してください!
今度お茶でも行きましょう!」
僕は絞り出すように言葉を紡いだ。
思えば僅か。
時間にして3分もなかったのではないか?
「タイガーナッツが身体に良いらしくて...。」
「タイガーナッツって何だろう?穀類かな?」
心ここにあらず。
たしかそんなことを話していたのだろうか。

僕が覚えているのは、彼女はタイガーナッツというものをよく知らずに、
それでも「身体によさそう!」「母さんが喜んでくれる!」
そんな気持ちで歩いているということ。
僕には眩しかった。
非モテ曰く

「俺、なんて邪な気持ちなんだろうか!」
なんとか、次に繋げないかとか考えてる自分が邪すぎて泣きたくなります!
僕みたいな非モテがナンパをやると思うことなんですが、
僕みたいな奴に足を止めてもらって申し訳ないんですよね。

むしろどうせシカトされる訳だし大丈夫!という謎の自信が湧いてくる始末。
だから、足を止めてもらうともう大混乱です。
何を話せばいいのか?
相手は全くの初対面の通行人なので皆目見当つきません。
むしろ日常の会話というものがいかに話題を選びやすいものなのだろうか。
今回の女性も、入院中の母親のために来ているというのに。
申し訳なさと眩しさのせいで、5月だというのにその時の僕の頭は大雪原のように真っ白でした。
眩しすぎると逃げ出したくなる
今すぐ言い訳つけて逃げ出したい気分だった。
たまたま声をかけた女性はとても良い娘で、この機会を失うこと。
それだけは避けたい!
それは下心よりももっと邪な自意識である。
さんざん非モテに悩んでいた男が潜在一隅のチャンスを棒に振ることは、自分の非モテ性を余すところなく目の当たりにすることと同じである。
僕は目の前の女性よりも自分の自意識にばかり目を向けてしまっていた。
だから何もせずに逃げることはできない。
しかし、僕には彼女が眩しすぎた。
全くもってわからない。
混迷した僕の頭から出たのがこのセリフ。
「連絡先を交換してください!
今度お茶でも行きましょう!」
僕は震える手で、彼女のメールアドレスをコピーした。
抜け落ちたのは心か?
僕はあの時の体験を思い出す。
僕はなんてことを話していたのだろうか?
タイガーナッツのことしか話していない。
「きっと米とかコーンと同じような穀類ですよ!」
今思い出してみても思う。
つまらない会話だと。

微妙にうまく転がる運命を無意識に恨んでました。
場つなぎの偉そうな知ったかぶり。
ナンパ師としては下の下の下。
ということ。
だけど、こんな風に話返してもらうと全くの心ここにあらず。
シカトされるうちは「仕方ない」と自意識が言う。
何も考えなくてよい。無心で居られる。
無心で居るということは自分の非モテ性に目を向けないでよいということ。
だからシカトされるのはとても楽だった。
だけど、女性が足を止めてしまえば自分の非モテ性はにょきにょきとキノコのように湧き出して来るのだった。
湧き出してしまえばもう向き合うしかない。
それを当時の、いや今もそうかもしれないが、嫌だった。
自分の意識が自分の脳みその少し上あたりに飛び出てしまう感じ。
非モテが湧き出るとはこんなイメージ。
今でも鮮明に思い出せる。
連絡先を交換した際の手の震えを。
震えるスマートフォンを取り落とさないこと。
ただそれのみに専心していた。
多分彼女の顔も言葉も全く頭に入っていなかった。
あの時の僕はスマートフォンを操作する心の無い人形のようだ。
無心で居ることによって自分の非モテ性を全力で無視していた。
そんな極端な無心は簡単に五感を狂わせてしまう。
だから気づかなかったのかもしれない。
僕のアドレス帳から彼女の連絡先が抜け落ちていたことを。
エア座談会にて振り返る



「自分なんかが話しちゃいけない存在だ!」って




だけど、こんなに頭のこんがらがった状況だと、「やれタイガーナッツが穀類だの」といった場つなぎみたいな会話しかできない。



