モテ昔話

塾長が桃太郎だったらこうモテる!

モテないみんなの願い星。
りょうた塾長でございます。

今回も当塾へお越しいただきありがとうございます。

皆さま。
桃太郎という童話をご存知でしょうか?

川から流れてきた桃から生まれた桃太郎が、
猿キジ犬を仲間にして、
鬼退治してめでたしめでたし。

有名ですね。
モテないやつでも知っている、国民的童話です。

この桃太郎ですが、
1つ気になることがないでしょうか?

それは桃太郎には彼女がいないことです。

●桃から生まれるという珍しい出自。
●動物と仲間になれるコミュニケーション力
●そして必死になって鬼と戦う根性。

こんなにもモテそうな要素たっぷりの桃太郎に彼女いないなんて信じられません!

そう思いますよね。

たしかにそうです。

私も桃太郎がモテないという事実については誠に遺憾です。

ですが、
塾長である私から見てしまうと彼に彼女が出来なかった理由も見えてきてしまいます。

それもそのはず。

桃太郎には「あ、し、ゆ」が足りないからです。

今回の講義では、

「もし私りょうた塾長が桃太郎だったらこうモテる!」

桃太郎のお話を追いながらこのようなテーマを考えていこうと思います。

おばあさんは川へ洗濯に

上州のからっ風が吹きおろす。
川はのんびりと走り、黄金の光を返す。

昔むかしある所に、
おじいさんとおばあさんが住んでいました。

おばあさんは今日も川に洗濯に行きました。
貧しいおばあさんは洗濯に食材の準備、そして芝刈りにとやることはたくさん。

今日も川は優しく流れます。お日様は力強く刺す洗濯日和です。

そんなある時、それは美しい薄紅色をした大きなかたまりが1つ。

どんぶらこっ。どんぶらこっ。

川上より、おばあさんの前に流れてきました。

今日も暑く、おばあさんはその薄紅色の桃を拾って食べることにしました。

「川から拾うなよな……」
「お役人に届けないのかよ」
「桃がかわいそう」

おばあさんは顔を白めながらいそいそと桃を拾って帰りました。

おばあさんは家に帰ると、やおら包丁を取り出し桃に切れ目を入れました。

その瞬間桃は割れ、中よりこれまた頰に薄紅色をたたえた赤ん坊が出てきました。

つぅう……。

涙がおばあさんの白んだ頰を流れました。

「わしの、ありがとうの成果じゃな」

いつの間に帰ってきたおじいさんのしゃがれ声はおばあさんには届いていませんでした。

おばあさんの秘密と「ありがとう」

「こんな嫁はいらん」

さらに昔。当時のおばあさんはそんな言葉と共に嫁ぎ先を追い出されました。

働き者すぎた当時のおばあさんは身体をこわし、子供を産めない身体になってしまったようでした。
すでに実家の家族は無く、行くあてはありませんでした。

「おまえにとっちゃあ、あの能なし男で充分じゃろう」

おじいさんは働かずにいつも山に行って「ありがとう」をしているので、村人たちは皆「能なし」と呼んでいました。

おじいさんと結婚するしかなかったおばあさんはさらに働きました。
川で洗濯をしながら魚を取り、それを干物にして村でいくばくかの日銭にします。

魚を取らない日は山に芝刈りに。

「ありがとうありがとう」

背後に響くのはおじいさんの声。

こんな日常の中で生まれたのが桃太郎でした。
そして時は進む……。

桃太郎と「ありがとう」

「おい。ケツから生まれたクソ太郎」
「拾い食い婆ぁん家のクソ太郎」
「ありがと能なしじじいん家のクソ太郎」
「今日のありがとうはどうした?ありがとしとけば幸せなんだろ?」

今日もいつものようにいじめっ子が桃太郎の周りを取り囲みます。

今日もぼろぼろの格好で家路につく桃太郎。
その口には消え入りそうな感謝の声。

「おばあさま。ありがとうは婆様のお役に立っているのでしょうか?」

ある日桃太郎は日頃からの疑問をおばあさんに向けてみることしました。

「ありがとうをしても村の子供たちの怒りは収まりません。いつも拙者の生まれや、家のことばかり揶揄われます。」
「婆様はじい様のことどう思われているのでしょう。拙者は知りたく思います」

その時のおばあさんの顔。
終わってしまった夏のようなもの寂しさを、桃太郎は生涯忘れませんでした。

「じいさんのありがとうは役になんて立ってないよ。働いてくれればそれこそありがとうなんじゃが」

役に立つありがとう。

この一節は桃太郎の心にほのかな明かりを灯しました。
今日も桃太郎は村に出ます。

「……」
「……また鬼け?」
「鬼に負けたそうじゃ……」
「もう将軍様に頼るしかないんじゃないけ?」
「ありゃ将軍様でも喰われちまうわい」
「そういえば、将軍様の所にとんでもない暴れん坊がおるそうじゃ」
「誰でもいいけんども、なんとかしてくれんかのう……」
「鬼に喰われるのは嫌じゃ」

桃太郎は不審なうわさを耳にしました。

鬼はどこだ?

北関東邪鬼討伐隊が鬼に負けたらしい。

桃太郎が村に出るとそんな噂で持ちきりでした。

「おいおいおい、出かけた時は500人はいたぞ?30人も戻ってないけんど、みんな喰われちまったんか?」

凶悪な鬼に対抗すべく、関東中の荒くれものを集めた北関東邪鬼討伐隊でしたが、奮闘むなしく1割弱の構成員を残してみんな鬼に食べられてしまったみたいです。

「なんとかして鬼様に怒りを鎮めてもらわな!」

恐ろしい鬼に村人はみな恐怖しました。

その時一声が響きます。

「鬼は子供が大好きじゃけ。桃太郎に説得に行ってもらおう」

「そうじゃ!桃太郎じゃ」
「桃太郎ならうまく召し…説得してくれるはずじゃ」

これから村人ははやぶさのような俊敏さで準備を済ませます。

着物に身を包んだ桃太郎は見送りの村人を連れて一旦家へ。

国境の越国から吹く湿った風を思わせるおばあさんの顔。

渡したきびだんごは僅かな塩気が含まれています。

「……」

いつも響く「ありがとう」の声はありません。

仲間達と「ありがとう」

桃太郎は村の街道に残る人達と別れ、一人で鬼の元へ向かいます。

その時、麦畑の影からとても大きな犬がのそりっと出てきました。

(鬼の住処に近いのにどうして逃げないんだろうか)

桃太郎がそう考えていると犬が語りました。

「今日も鬼のやつらのせいで、獲物がびびって逃げ足が速いわい。腹が減ってかなわん」
「鬼のところに連れてってくれりゃ、わしのキバで八裂きにしちゃるのになぁ」

腹を空かした犬はそのでかい図体と鈍足おかげで獲物に逃げられるのを鬼のせいにして、それどころかやっつけてやろうと息巻いてました。

桃太郎がきびだんごを与えると、

「鬼の肉が楽しみじゃあ。ありがとさん」

と桃太郎についてきました。

桃太郎と犬が鬼の住処への道を行くその途中、背の高い草っ原を通りました。

その時、草の影から「ケェーッン」という大きな声が。
ぼろのような羽をしたキジが姿をみせました。

「なんだ人と犬か。ここいらはメシの虫もとまってなくてな。鬼のせいじゃ。みんなどっか飛んでちまったよ」
「私はあんな馬鹿どもと違うから、こうやって草に隠れて物音がしたら脅かして捉えようとしてたんじゃ」

(この羽は飛ぶのが大変だろうな。だからこんなひねた性格になってしまったのだろうか?)

桃太郎は自分のいきさつを話しながらも、お腹を空かせたキジにきびだんごをあげました。

「そうか。なら私を連れていくといいぞ。さっきの狩の仕方を見ただろう?私はちぃっとばかし頭がキレるぞ」

キジも桃太郎達の後を追って走ってきました。

「鬼のほうけた顔が目に浮かぶわい。ケーン。ありがとよ」

桃太郎、犬とキジが道を歩いていると、猿の群れが来た方向に逃げていきました。

「鬼の住処も近いぞ。拙者達も気を引き締めていこう」

桃太郎は自らと仲間たちを戒めます。

そんな時木の上に目を向けると一匹の猿と目が合いました。

「ふん……。臆病者達が。群れてしか行動できぬやつらはこれだから困るわ」

「お猿さま。ここは鬼の住処に近く危ないですよ。あなたのお仲間はみんな逃げました。それとも何か理由でもあるのでしょうか?」

「キィー!俺はあんな臆病どもとは違うわい。これから鬼をやっつけて見返してやるんじゃ」

桃太郎はそんな猿にきびだんごを渡しました。
桃太郎、犬、キジ、猿は進みます。

「ありがとさん。鬼なんぞ、なんも怖くないわ。ウッキャッキャ!」

「みなの者。拙者について来てくれてありがとう」

「知りたい」という気持ちが教えてくれたのは三者三様の生き方。

一匹は自らの有り余る力を誇示するため。
一羽は自らの智略を賛美するため。
一匹は自らの反骨心をぶつけるため。

思いは違えど、口から出る言葉はありがとう。

棄てられた少年の口をつくのもありがとう。

「誰かの役に立つありがとうか……」

鬼の住処は目の前です。

死闘と「ありがとう」

舞う雷に、叩きつける雹。
雲から垂れる漏斗は全てを吹き飛ばす。
渦巻く「怒、忿、畏、苦、憤、鬱」。
この世の悪意を全て集めた顔がそこにあった。

百鬼夜行。
恐ろしい鬼達は群をなし桃太郎達を襲います。

「うむ。日頃のありがとうの成果だ」

桃太郎は鬼達に向かいます。

きゃんきゃんきゃん。

桃太郎の横を疾風が駆け抜けます。
あの巨体を揺らし、かん高い声を上げながら犬は脱兎のごとく元来た道を引き返します。

けぇぇん。けん。

今まで一緒に歩いてきたキジが天高く舞い上がりました。
その姿はすぐに見えなくなりました。

うきっ、うきっき。

反骨心溢れた堂々たる姿で一行に加わった猿。
鬼の元にゆっくり近づき、どこから出したのか
餌のばななを鬼達に配り始めました。

桃太郎は1人に戻りました。
百鬼夜行は桃太郎に向かいます。

鬼の1人は金棒を振り抜きました。

ありがとう、ありがとう……。

壁に叩きつけられた桃太郎は呟きました。
うわ言かもしれません。

壁より地に落とされた桃太郎の先には鬼の右足が。

今度は蹴り飛ばされます。

あ、り、が、と、う……。

またその先には金棒を構えた鬼が。
桃太郎は壁の向こうに打ち返されました。

「やんややんや。」

猿は拍手を送りました。

あ……が、と……。

桃太郎の目には空。
雲の隙間からは光のカーテンが見えました。

「武器も持たずのこのこ乗り込んだドMはどこだい!」

援軍と「ありがとう」

「噂を聞いて来てみれば、ずいぶんなM野郎がいたもんだねぇ」

当時の将軍はたいそう好色者で、色んな側女をつけていました。

将軍は薫風漂う春の草っ原や、黄金色跳ね返す川の側。
ところ構わず側女を連れ回していました。

そんな折に生まれたのが、この「魅姫(すだまひめ)」でした。

魅姫は女だてら大弓を引き、将軍家でも誰も乗れない暴れ馬を乗りこなします。

そんな魅姫に人々は魅了され、多くの家臣を引き連れるようになりました。

その数幾千。

鬼の住処になだれ込みます。

ビシッ、ビシッ!

中空を音速の龍が舞います。
龍は鬼の肌を容易に切りさき、鬼達をあっという間に縛ってしまいました。

「あんた達!炎の涙をくれてやりな!」

魅姫や家臣たちは各々腰にさしていた赤いロウソクを両の手指の間に6本を持つと、全てに灯をともします。

その姿は火の神、迦楼羅(カルラ)の降臨です。

さしぞの鬼も、音速の龍と火の神には勝てません。

また魅姫が乗っていた車の背に立つ妖しい道具を見ると、勝手に恐慌していきました。

あたりを支配するのは静寂。
虫の声すらしない。

「ありがとうございました」

(どうして拙者を助けてくれたのだろうか?知りたい)
ぼろぼろの桃太郎は魅姫に感謝の気持ちを伝えました。

「ふん。あたしはあたし好みのドMが鬼に先に喰われちまうのが嫌なだけさ」
「あんたのおかげで厄介な鬼も倒せたよ。こちらこそお礼を言うよ」

背後にどこか寒気を感じながら、桃太郎は魅姫に連れられ村に帰りました。

みんなに「ありがとう」

鬼退治が終わり村に帰った桃太郎、犬、キジ、猿のご一行。

「桃太郎様ありがとう」
「勇敢な従者たちにもありがとう」
「働き者のおばあさんもありがとう」

満身創痍の桃太郎は魅姫に支えられながら微笑みます。
従者たちの表情も晴れ晴れとしたものです。

村人も今までの態度が嘘のように、桃太郎やおばあさんを祝福しました。

再び桃太郎は微笑みながら一言。

「ありがとう」

時は少し経つ。

「あの魅姫様に許婿ができたらしいぞよ」
「1人で鬼退治に行った勇敢な男らしいぞ」
「それなら魅姫様でも満足できそうじゃなぁ」

桃太郎たちはお城に住むことになりました。

庭では犬と猿がじゃれ合い、キジは木に捕まっています。

おばあさんは今日も洗濯……。
おっとまた働きすぎを咎められたみたいです。

ビシッ!

今日も部屋の中で龍が音を置き去りにします。

あとがき

いかがでしたでしょうか?

本編では、彼女ができなかった桃太郎にもついに彼女ができてめでたし。

本日のまとめ。

「あ、し、ゆ」があれば鬼でも恋人が出来る!

  • この記事を書いた人

りょうた”元”塾長

「元」非モテの塾長。30年を超える非モテ人生の果てに現在の彼女と出会い、当たり前な幸福を手に入れる。自身の非モテ人生によって培われた感性で恋愛について雑多に語る文筆家。

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