おれのモテ塾 りょうた塾長とは

自己紹介

[とあるむらの教会]

「そなたを魔法使いに任命する!神のご加護のあらんことを!」

ステンドグラスから注ぎ込むのは祝福の光。
風が、火が、水が、土が。
彼に異形の力をさずけるのだ。

朝の日を受け目を覚ます。

姿から似つかないが、
低血圧な彼が覚醒するには10分ほどの時が必要だ。

頭のもやが晴れたらワイシャツを着てスラックスを履いて。
顔を洗って寝癖を直して、朝ごはん。
そして電車に2時間揺られる。

朝日の中玄関を抜ける。
いつもと変わらない1日が始まる。

そんな彼の名前はりょうた。
サラリーマン。生まれてきて30年。

彼女はいない。
いや、出来たことがない。
30歳だ。


〔彼は生まれてこのかた一切モテたことがない。〕

高校も大学も共学に通い、そこそこ異性との交流を持てる場で育ったにもかかわらず女性にモテたことはなかった。

そんな自分が嫌で、
どうにかして恋人を作ろうとまい進し、
100人くらいの女性と連絡先を交換してきたが、
彼の送ったメールに返信をくれる人はどれだけいたのだろうか。

そんな彼から見ると恋愛は川底を無数に転がる砂の中からひと粒の砂金を見つけるようなもの。

ついぞこの前も、
せっかく仲良くなった女性に告白もできずに気まずくなってしまった。
雰囲気がもう自分には希望がないと教えてくれたのだ。

言ってしまうならばりょうたは【非モテの天才】だ。

[りょうた まほうつかい レベル:30]

この世界に魔法は存在しない。
そんな中で任命された魔法使いの肩書きはただの呪い。

【第1章】199の魔法の書とありがとうの「あ」

インターネットと呼ばれる星の海がある。

織姫星【ベガ】や彦星【アルタイル】のような光り輝くお話しもあれば、
そこいらの名もなき星のような取るに足らないお話しまで。

ぼくらはこんな星たちをヘッドライトのようにして、
うす暗い宙【そら】のような日常を照らしながら歩いている。

川の砂を何度も何度もふるいにかけて、
やっと見つけたひと粒の光。

それは春の一陣の風に容易に飛ばされてしまう。

そんな日々にへきえきしていた。

それでも歩かないといけない。

そんなある日、ネットの海から1つの光源を見つけた。

〈199式メソッド 潜在意識で金持ちになって彼女もできる〉
http://abrahamloa.blog129.fc2.com/blog-entry-22.html

雨にも負けず。
(俺はイケメンである。ありがとう。
俺はイケメンである。ありがとう。
俺はイケメンである。ありがとう。)

風にも負けず。
(俺はイケメンである。ありがとう。
俺はイケメンである。ありがとう。
俺はイケメンである。ありがとう。)

雪にも夏の暑さにも負けぬ
(俺はイケメンである。ありがとう。
俺はイケメンである。ありがとう。
俺はイケメンである。ありがとう。)

欲はなく決して怒らず。
(俺はイケメンである。ありがとう。
俺はイケメンである。ありがとう。
俺はイケメンである。ありがとう。)

いつも静かに笑っている。
(俺はイケメンである。ありがとう。
俺はイケメンである。ありがとう。
俺はイケメンである。ありがとう。)

1日は24時間。
会社への通勤時間は往復4時間。

スマートホンに自分の声を吹き込んだ彼は、
その音声を繰り返し聴き続けた。
これをアファーメーションという。

 

 

雨の日も。

風の日も。

(俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。俺はイケメンである。ありがとう。)

 

 

こうして月が4回ほど生まれ変わった。

りょうたはたおれた。


朝の気だるい雰囲気の中。

顔を洗うと必ず浮かぶもう1人の自分。

毎日自分の声を聞いていると気づくことがある。

「鏡の中の自分は決してイケメンではない」

毎日繰り返される自分の声と鏡の中とのギャップ。

これは頭痛という形で彼の身体に訴えかけることになった。

「イケメンイケメンイケメンイケメン。いけめん?イケメン。いけめんいけめんいけめん。池麺!?池麺池麺池麺!!!」

1006年5月1日
南の低い空に突如現れた第2のお月様。

巨星の最期のごとく。

彼の頭は弾けて光った。


イケメンでない人間がイケメンと唱え続けると頭が痛くなるのを知った。

八方塞がり。

「いや、イケメンが良くないのであって、方向性は悪くないぞ!」

アファーメーションに問題があるのではなく、
イケメンという物理的にありえないことを考えるから悪いのである。

そんな中しっくりくるフレーズがある。

だ。


自分自信を育ててくれた武道への大きな恩。

自分なりに少しでも返そうと思い立ったのが

1日一万回。感謝の正拳突き!!〕

{HUNTERXHUNTER 25巻より}

1日10,000回ありがとう

雨にも負けず風にも負けず。【ありがとう】

東に病気の子供がいれば行って看病してやり【ありがとう】

西に疲れた母がいれば行って稲の束を負い【ありがとう】

南に死にそうな人あれば行ってこわがらなくていいと言い【ありがとう】

北にけんかや損傷があればつまらないからやめろと言い【ありがとう】

1日は24時間ある。
起きている時間は18時間ある。

彼はその全てを感謝に使った。


「今度仕事を独立したら、お前も一緒に仕事しようぜ」

ありがとうを意識した。

ふた月もすると「ありがとう」のフレーズが髪の毛の先からつまさきまで。
しっくり自分のもののように定着する。

そんなある日会社で先輩に言われた言葉がこれ。

何故だか知らないけど
色んな人からの気持ちが自分に向いてきているような気がしてきた。

いや、それはすでにあったもので、
ただ今まで気づかなかっただけなんだ。


【第2章】己を知ったら相手も知りたいの「し」

モテない30歳会社員。

またの名を魔法使いりょうた。
30歳の年、まずは感謝から始めてみた。

そして半年。

次第に自分の周りのしあわせに気づいてきた。

そんなある日のことだ。

半年ほど会えてなかった《ある人》が来てくれることになった。

その日の夜空には【デネブ】と【アルタイル】と【ベガ】がそれはまた大きな三角形を作って見守っていました。

時には白亜の川底を見せる美しい水面も、
ひとたび大水を受けると竜のように荒れ狂う。

そんな人々の思惑が交錯する夜。

彼は濁流の竜たちに翻弄される。

流されないように流されないように確かなものにつかまって。

チャンスがあれば《その人》のいる川辺に泳ぐ。


その日は友人数名とバーベキューをしていました。

そんなある時に1人の友人が《その人》を呼んでくれました。

ちなみに《その人》は冒頭で、せっかく仲良くなったのに気まずくなってしまった女性。

友人数名と《その人》でカラオケに行くことに…。


「私はあなたのことが好きでした。」

濁流が静まった一瞬。
友人達が揃って部屋から出て行った時だ。

生まれて初めての告白は、何故か【過去形】。

アイス珈琲に溶かしたミルク。
透きとおった液体の中に溶け込む異物は放射状に糸を引いて水を濁らせる。

「あら、そう。…?」

彼は《その人》のことを現在進行形で好きだったが、
勝手に完結してしまった。

そんな間違ったことを伝え、さらなる誤解を生んだところで生まれて初めての告白は終わった。


「恋愛は相手があってこそ。
自分というベースはできたけど、次は相手のことを考えてみればいいんじゃないかな」

そんな天上からの祝福(友人からのアドバイス)を聞いた彼。

「せっかくここまで調子良く来れたのに…」

以前までの彼はこの言葉で終わってしまっただろう。

が今は違う。
感謝10,000回をやり遂げてきたのだ。
力技でここまで来れたのだ。

力技でうまくいかないなら、
力技の方向性を変えればいいのだ。

自分向きの力技だったのが「ありがとう」。
相手向きの力技をすれば良いのだ。


《あの人》の

【誕生日は何月何日だろうか?】
【何時何分だろうか?】
【生まれたのは何県何市だろうか?】
【それともなんとか郡なんとか町だろうか?】
【動物は何が好きなんだろうか?】
【何か動物は飼っていたのだろうか?】
【あの髪型はいつからだろうか?】
【あの髪型はどこで切っているんだろうか?】
【あの髪型は誰に切ってもらっているんだろうか?】

etc……。

彼は部屋の本棚から殆ど使っていないノートを引っ張り出し、
何かが書いてあった最初の数ページを引きちぎりまっさらなノートにした。

そしてそこに書いた。

ひたすら書いた。

【好きな食べ物はなんだろう?】
【甘いものかな?】
【ケーキかな?】
【ショートケーキ?】
【モンブラン?】
【チョコレートケーキ?】
【エッグタルト?】
【それともしょっぱいもの?】
【ラーメン?】
【醤油ラーメン?】
【塩ラーメン?】
【豚骨ラーメン?】
【味噌ラーメン?】

[知りたい]ことを思いつくままに書いてみた。

1時間に100個。

雨にも負けず風にも負けず。
【好きな服は?】
【デニムスタイル?】
【スカート?】
【色は?】
【暖色?】
【寒色?】

寒さの夏はおろおろと歩き。
【好きな遊び場は?】
【水族館?】
【どんな魚?】
【それとも動物?】
【動物園?】
【遊園地?】
【夢の国?】

みんなに木偶の坊と呼ばれ。
褒めれもせず、苦にもされず。
【最近辛かったことはどんなこと?】
【仕事のこと?】
【人間関係?】
【上司?】
【部下?】
【恋愛のこと?】
【昔の彼?】
【理想の恋愛?】

そういう者に私はなりたい。

おおよそ7,000個くらいになった頃には夏の大三角は姿を隠し、
アンドロメダが幅を利かす秋の空が広がっていた。


「ダメかもしれない…拒絶される…」

自分向きの力技である【ありがとう】では抗えない不安感。

相手向きの力技の【知りたい】で鍛えた彼の脚を止めるには力不足だった。

「色々、色々あったけど、俺ってば、あなたのことが、好き、なんだよね」

竜のような濁流をはねのけて、
炎のように荒れ狂う川を泳ぎきる。

彼は息も絶え絶え言いきった。

酒を飲んでも白いままの彼の顔は、
その時だけは蠍星【アンタレス】のように真っ赤だった。


空港のロビー。

彼はそっとスマートホンを取り出す。

「好きって言ってくれてありがとうね。

でも、

りょうちゃんの気持ちには答えられません。

ごめんなさい。」

彼はからりとした秋の蒼天の中。消えていきました。

【第3章】
ありがとうの「あ」、知りたいの「し」。
そして、ゆるしの「ゆ」。

徳島への出張の当日、数ヶ月引きづった片思いに終止符を打った彼。

そんな彼も男だ。

ある給料日の夜、繁華街を歩く。


 

「15,000円でどう?」

そんな甘い言葉に乗せられた彼は、

ホイホイとお金を男に払った。

「最初に自分に27,000円払ってもらって、後で女の子からキャッシュバックで12,000円もらってください」

そんな言葉を聞きながら期待に心を膨らませた。

夜の繁華街はあらゆる星々が辺り一面に光る。

さながら星座を渡る天の川のよう。

光の川をさかのぼる一艘のボートに乗り彼は目的地へ向かう。

彼は光り輝く天上の館に入る。

ロビーに入る。

天上の部屋には順番待ちがある。

この間に星が何回も爆ぜて生まれ変わったのだろう。

ゴミがぶつかり合い原始星が誕生し、

中で水素が生まれつもり固まってヘリウムが生まれる。

さらなる時の先、星の中には鉄がたまりさん然と輝いた星の終わりの残り滓。白色矮星を生む。

そんな中、一握りの星は収縮の果てに爆ぜる。

新たな星の誕生と言われるそれは超新星爆発。

巨星の終わり。

こんな宇宙が彼の中で終わりって始まる。

永劫の時。

風俗の待ち時間とはそういうものなのだ。

抑えきれない気持ち。

これはマグマに例えるべきか?

何万年も前の地層が何万年も押され潰され圧縮されて。

とりあえず部屋についた彼はタバコに火をつける。

じじじ……。

燃えて短くなるタバコは彼の心かもしれない。

じじじ……。

彼1人の部屋の中。

微かなほんの微かな燃える音だけが残る。

ほとんど無音の空間。

この後響くだろうノックの音。

これを聞き逃さないように静寂は部屋を支配する。

部屋の中で2本目のタバコを吸っていると、

扉がノックされる。

来たのだ。

天上の天女が。

彼は導かれるままにシャワーを浴び、

ベッドに横になる。

「最後までしたい?」

微笑みながら頷く。

ハレルヤへの祝福が約束された瞬間だ。

「じゃあ、わたし頑張るから少しだけお助けしてくれませんか?」

(まあキャッシュバック分があるからいいか)

「じゃあ7,000で」

と気分がかなり下がりつつも応える。

女の子は不満そう。

さらにやりとりが続くと、さすがに彼は嫌になり、

「てゆうか今金払ってしまったから有り金がない。」

「てかキャッシュバックもって来てるの?」

と返す。

女の子は?マークを浮かべる。

(ああこれは一杯食わされたな)

彼は、街頭のお兄さんにお金を払った旨を伝えるが、

女の子はこんな話は聞いていないと答えた。

怪訝に思った女の子は店に電話する。

彼は電話を代わって相手に事実を説明する。

調べるから待ってくれと言われたので、

彼は待っことにした。

既に満点の星も燃えたぎるマグマも何もない。

揉み消され、ぐにゃぐにゃにしおれたタバコの吸い殻は彼自身なのかもしれない。

突然のことだった。

部屋の扉がノックされる。

女の子が扉を開けると男性のボーイさんが現れた。

彼はボーイさんに事情を説明する。

「どうやらやられたみたいですね」

「やっぱりそうですよね」

行き場のないマグマを溜めた彼は弾けたように笑った。

服も着ないで笑う彼は壊れたくるみ割り人形のような狂気を人の目に移したのだろう。

しかしここから話は急変する。

「女の子動かしてしまったので、何ももらわないわけにはいきません。」

ボーイさんは神妙な顔立ちで

彼に驚愕の事態を伝える。

冷え固まった石炭のように暗い表情で彼は拒絶を示す。

しかしボーイさんは引き下がらない。

その姿は遠い魯西亜の地に君臨する冬将軍だ。

ナポレオンもヒトラーも誰の侵攻も跳ね返す。

なお、

街頭のお兄さんの電話番号に電話してももちろん出ない。

(コレはさらに不味くないか?)

彼はさくっと服を着て帰り仕度をする。

そこにさらに店長も加わり面倒なことに。

彼は交番に駆け込むことになった。

店長は

「貴方が勝手に客引きに着いて行ったわけですから、支払い義務はありますよ。

警察に言っても変わりませんよ」

と堂々と言う。

その姿は冬将軍どころか冬皇帝だ。

しかし気の治らない彼は交番に入る。

僕は警官に事情を話す。

「コレは客引きからしたら、

貴方がデリヘルに電話する手間賃としてとったかたちになるから、

お店と客引きは全く関係無いんですね。

だからお店と貴方のあいだでの金銭の話は当人間での問題になっちゃうんですね。」

さすがに彼は納得した。

ボーイさんの言い分と警察の言い分は同じだからだ。

彼はその後も少しゴネたが、

ボーイさんもウソは言っていなそうな上警官も納得している。

「女の子の給与分だけお願いします。」

「えっとさんまんといくらでしたっけ?」

「34,800円です。いや800円はいりません」

と店員さん。

「男だねぇ!」

と警官。

その後彼は近くの銀行に駆け込み、34,000円をボーイさんに支払った。

こうして彼の口座からは、

62,000円が消えた。


さん然とアンドロメダが輝く空の下。

彼はごっそり減った金貨達を思い出す。

彼は元来疑い深い性格をしていて、
街中で他人に話しかけられないように拒絶オーラを出していた。

だけど、最近は「ありがとう」や「知りたい」で変わった。

もやもやっとした星雲のような人を寄せ付けるオーラを纏っていた。

だから、急に話しかけてきた人を無下にしなかった。

「たまたま気分が良くて話を聞いたらコレだよ!」

昔だったら間違えなくこう思っていた彼の口から出た言葉は、

「ありがとう」

だった。


彼はバカだ。

バカげたことでもバカのように取り組んでしまうバカだ。

【ありがとう】が必要なら一日中感謝し続けるし、

【知りたい】が必要ならノートをびっしりうめてしまう。

どうやら人の心というものは、
こんなバカなことで書き換わってしまうらしい。

バカみたいに取り組んだ【ありがとう】と【知りたい】。

これが1人のおろかな悲観主義者【ペシニスト】を変えた。

怒り狂う彼の話を納得するまで聴いてくれた警察官。
ありがとう。

納得するまで支払いを待ってくれたボーイさん。
ありがとう。

そして客引の男。

最高のタイミングで声をかけてくれてありがとう。
最悪の経験を【ゆるす】ことができて良かった。
あなたを【ゆるす】ことができたのが62,000円払って買えた経験でした。

ありがとう。

彼はバカだ。

【ありがとう】バカだ。

【知りたい】バカだ。

そして六万円騙し取られて【ゆるし】ちゃうバカだ。

彼は昔より


黒曜石のような鋭い風が吹く年の暮れ。

相変わらず彼には恋人はいません。
もちろん恋人を探せるように西に東に走る。
でも昔のように切羽詰まってはいません。

モテない自分も、相手にしてくれない人も【ゆるし】ちゃったからです。

おっと女の子から2週間ぶりにメールがきた。

これを確認しつつ彼は駅を降り、あるモニュメントに向かう。

「こんばんは。りょうたです!

今日は来てくれてありがとう。
楽しく飲みましょう!」

  • この記事を書いた人

りょうた”元”塾長

「元」非モテの塾長。30年を超える非モテ人生の果てに現在の彼女と出会い、当たり前な幸福を手に入れる。自身の非モテ人生によって培われた感性で恋愛について雑多に語る文筆家。

-おれのモテ塾, りょうた塾長とは